エルガー、威風堂々第6の日本初演

今日はマチネー、大友直人プロデュース 東京芸術劇場シリーズ第93回を聴いてきました。

エルガー・ペイン補筆/行進曲「威風堂々」第6番(日本初演)
チャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲
~休憩~
エルガー/交響曲第2番
指揮/大友直人
独奏/ネマニャ・ラドゥロヴィッチ
コンサートマスター/高木和弘

目当ては当然、エルガー。それも日本初演の威風堂々第6番。
エルガーをメインにしたプログラムながら、客席は盛況、1階を見渡す限り、空席はほとんどないようでした。まずそのことに感慨。エルガーも人気が出てきたのかしら。
もしそうだとすれば、この日のマエストロ・大友氏の尽力が功を奏して来たわけで、慶賀の至りでしょう。

プログラムによれば、東京交響楽団との第2交響曲は3度目の由。何でも5年おきに取り上げているとか。私も前回の2002年をサントリーホールで聴いた記憶があります。その前の1997年版は旧クラシック7で放送されたはず。今や機械の都合で聴けないけれど、録音したテープは残っていると思います。

さて、
威風堂々行進曲は第1番のみが有名で、他の4曲はあまり演奏されることはありません。
エルガーは当初6曲セットで構成する積りだったそうで、第6番の草稿が発見され、エルガー家の依頼でアンソニー・ペインが補筆完成させたのが第6番。
去年、イギリスで初演され、今回が日本初演です。スコアも出たばかり(前の日記)。

一度聴いただけで判った、というわけにはいきません。が、行進曲ですから、それほど情報量が多いわけではありますまい。ペインの創作、他作品からの引用などもあるようで、詳しくはスコアを見てからにしましょう。何種類か録音もされているようですし。
他の5曲同様大編成。行進曲にしては8分の9拍子みたいな部分もあったりして、チョッと捻った感じがしました。マエストロとオーケストラの自信タップリの演奏振りが結構聴かせましたね。

交響曲は立派でした。前回と比べても更に読みが深くなっているのでしょう。オーケストラも実に重厚なサウンドで応えていましたし、客席も沸きました。
ところで、第2はエドワード7世追悼のために捧げられています。第2楽章は明らかに葬送行進曲でしょう。
エドワード7世はヴィクトリア女王の長男。女王が長生きだったため60歳で即位しています。政治家としては外交に手腕を発揮したようですが、皇太子時代から競馬好きで知られていました。
エルガーとは個人的にも親しかったそうですが、エルガーもまた大の競馬好きでした。ですから二人が遭えば、音楽はもちろんのこと、馬の話題でも盛り上がったことが想像されます。

キングは馬主としてもダービーに3度優勝しています。1896年のパーシモン Persimmon 、1900年のダイアモンド・ジュビリー Diamond Jubilee 、1909年のミノル Minoru です。パーシモンはセントレジャーも勝った2冠馬ですし、ダイヤモンド・ジュビリーに至っては3冠馬。
ミノルは、キングが女性に現を抜かしてやや競馬熱が冷めていた頃のことで、別の所有者からリースを受けていた馬ですが、2000ギニーにも勝っています。

ダービーを制覇した時は、有名な女優がレース後「ゴッド・セイヴ・ザ・キング」を歌いだし、エプサムの丘が国王讃歌の大合唱で満たされたというエピソードが残っています。
エルガーはその場にいたかも知れませんし、いなくとも良く承知していたでしょう。これが1909年のこと。キングは翌春3月に亡くなりましたから、ミノルは最後のダービー観戦だったことになります。

以上のことを思い、エルガーが暗示好きな作曲家だったことを考えれば、エルガーの第2交響曲には競馬に関する「何か」が隠されているような気がしてなりませんね。具体的に何処、と言うことは出来ませんが、私はどうしても競馬や競馬場の独特な雰囲気をこの曲から感じてしまうのでした。一言で言えば、静かなる興奮。

ところでこの日はユーゴスラヴィア出身のヴァイオリニスト、ラドゥロヴィッチを迎えてチャイコフスキーの協奏曲が演奏されました。
大変なテクニックと独特な演奏スタイル、派手なパフォーマンスに聴衆は大喝采。アンコールにバッハのサラバンド(パルティータ2番)を引き出すほどでした。
その有様は、第1楽章が終わった時に盛大な拍手が巻き起こり、いつ果てることもなく続いたことで想像してください。
大友=東響もまるで売られた喧嘩を買うが如く、テンポを上げに上げてこれに競うのでした。

私は憮然。音楽と曲芸は違うのです。ここまで作品のスタイルを無視されては文句の一つも言いたくなります。
こういう演奏が喝采で迎えられるということは、クラシック音楽が単なるエンターテインメントとしてしか聴かれていない証拠なのか。

風体も気に入りません。現代のパガニーニとでも呼ばせたいのでしょう。おっと、これは坊主憎けりゃ袈裟まで、の類。慎みましょう。
テクニックが冴え渡り、激しくテンポが揺れれば揺れるほど、私は退屈に悩まされるのでした。あれに比べて昨日の小山実稚恵、何と誠実な音楽を紡いでいたことか。

 

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